「ほっ」と。キャンペーン
<   2012年 02月 ( 1 )   > この月の画像一覧
the days of wine and recollection.
a0152148_15593219.jpg


BGM♪ Nur Wer die Sehnsucht kennt / Tchaikovsky


14歳のときに、その人に恋をしていた。
しかし、その人には触れることも話しかけることも、そして、会うことも叶わなかった。
ただじっと、一葉の絵となりしその人を見つめ、その瞳に点る小さな光に夢見心地に恍惚となりつつ、
実らざる永遠の片想いに、細い溜息をついたものだった。

美術の教科書にあった人物画の章で、1ページ分をどどんと使い、どどんと微笑むモナ・リザの片隅に、
小さくその人は、いた。

フェルメール作「真珠の耳飾りの少女」。  

全くもって理解不能な数学の時間。教師の唱える意味不明なサインコサインタンジェントの呪文も上の空に、
数学の教科書の下に隠した美術の教科書を盗み見ては、暗い影の中に優しい光を浴びてさりげなく振り向く、
もの言いた気な耳飾りの君との秘かな逢引を愉しんだものであった。

今思えばそんな私は、根暗なことこの上ない少年であった。根暗と言うか、いささか危ない。
そして、数学のテストでは前代未聞の惨憺たる成績を収めたのは、言うまでもない。

時は20年ほど経ち、つい先日のこと。FMラジオでフェルメール展が銀座で催されていることを知った。
忘れかけていた耳飾りの君との日々が記憶の底から蘇り、いてもたってもいられずに、早速赴いた。

耳飾りの君は、そこにいた。変わることなく、むしろ、どどんと微笑むモナ・リザの片隅に追いやられ、
数学の教科書の脇からちんまりと振り返っていた頃よりも、彼女は美しくなっていた。
美しくなった彼女をしばし見つめ、あの頃感じた切ない想いが鼻の奥にツンときたときに、踵を返して
私はその場を立ち去った・・・。

その刹那。背後で「カシャキュン」と、別れの寂寥感をブチ壊すかのように携帯で写メを撮る音がした。
展覧会で写真なぞご法度であろうと思い、少々気色ばみつつ辺りを見渡すと、そこかしこで作品に向けて
写真を撮っている来客たちがいるではないか。

この展覧会の作品は、実物を忠実に、且つ350年もの時を経て色褪せたものを、デジタル処理で当時の
色彩を再現した模造であるため、撮影も許可されているらしい。それを察知するや再び踵を返した私は、
耳飾りの君の前に陣取り、持っていたデジカメで「これでもか」と言うくらいシャッターを切っていた。

心疲れて眠れぬ夜に、瞼の奥に焼き付けた彼女をそっと呼び起こし、もの言いた気な彼女の瞳に
もの問いかけてみたりして、己をそこはかとなく慰めてみるような日々を送ってみようと思っていたのだが、
禁猟区と信じ厳かに踏み入った聖なる追憶の園が解禁猟区だと知るや、図らずもおっ取り刀の写真狩人と
化した自らの「シャッター鬼切り」の愚かな行為によって、そんな甘美な企ては見事打ち砕かれてしまった。

今、カメラに残る耳飾りの君の写真データを永遠に消してしまい、当初のおセンチ計画通り、
時々そっと美しき妄想に耽ることにするか、写真を永久保存版にがっつり残して、iPhoneの待ち受け
にでも起用して、毎日眺めてニンマリするか、激しく心が葛藤している。

フェルメール光の王国展 ~2012.7.22[SUN]

model : mayumi muroya
[PR]
by hideet-seesaw | 2012-02-07 13:20 | photograph