「ほっ」と。キャンペーン
<   2011年 12月 ( 1 )   > この月の画像一覧
cold blast
a0152148_2152912.jpg


BGM♪ James / Billy Joel


日増しにパソコンに届く迷惑メールが増えている。

そんな先日。普段なら見向きもせずに破棄してしまう「10代の家出娘たちの援助募集!おうちに泊めて!
お礼はなんでもします・・・♡」とか、「既婚女性リフレッシュの為の元気な男性会員募集!」などといった、
怪しいことこの上ない迷惑猥褻メールに混ざっていた一通のダイレクトメールに目が留まった。

「楽天トラベル・2000ポイント割引キャンペーン!」

いつもなら開封もせずに破棄なのだが、ちょうど茨城に宿泊する予定があったので、
珍しくそのダイレクトメールを開けてみた。
読めば、そのメールを通して宿に予約をすれば、2000円割引であるらしい。
これが冒頭の様な迷惑メールの類なら、危険すぎるので鼻にもかけないのだが、この送り主は
天下のネットショッピングサイト「楽天」のものである。しかもタイミングが良かったので、さっそく
宿を物色してみると、目的地に程近い場所で「ワケあり部屋!格安!素泊まり2980円!」
というのを見つけたのだ。

まず値段に喰いつき、部屋の写真や設備をチェック。悪くない。して、その「ワケあり」のワケとは?
見れば、「この部屋の暖房機は、音が少々大きめなので、そのために格安です。」と、
テレビのカタログ写真脇に書いてある「※画面はハメ込み合成です」みたいに小さく書いてあった。

少々うるさいくらいなら、なんてことないだろう・・・2980円なら、2000円割引で980円!?
ブラボー!!と、深く考えもせず、値段に釣られて結局その宿に決めたのだった。

そして当日。渋滞なく快適な高速道路をすっ飛ばして宿に着くと、見てくれは普通のビジネスホテルである。
可もなく不可もなく、泊まるだけなら十分な宿である。この寒い時期になぜか半袖のホテルマンにキーをもらい、
件の部屋へ。窓に映った田園風景に燈る小さな街の灯に旅情もひとしおで、破格の宿泊費も手伝ってゴキゲンである。
「うるさい」と、ワケありの折り紙つきの暖房君も、ごおごおと確かに少々うるさいが、それは私の実家にもある
古いタイプの暖房機に有り勝ちな程度のものであったので、懐かしいくらいだ。
980円で泊まれるなんて、俺はなんてラッキー野郎だ!と、写真を撮って友人に自慢したりして、
一人ハシャいでいた。

最初は静かな夜だった。ユニットバスに浸かってあたたまり、寝る前のひとときを持参した杜仲茶をジジむさく飲みながら
ダラリと過ごしていると、それまで大人しく部屋をあたためてくれていた暖房君が、隠していた「ワケあり」の
本性をむき出しに、突然シャウトし始めた。

「けーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」という、大きくはないが、生理的に非常にイヤな
音である。教室の黒板を爪で引っ掻くのに似たジャンルのサウンドである。これは参った・・・。

普通に取った宿ならば、フロントに電話を掛けて「暖房がうるさくて敵わんのだがね、部屋を替えてもらえん
かね。ちみ。」と、「客」という立場をふんだんに活かし、パイプを燻らせながらカイゼル髭を撫しつつ居丈高
に物言いでもしてしまうところだが、生憎私は「ワケあり部屋」を承知で、しかも2000円割引の980円野郎
である。文句が言えない。

例えるなら、「アナタが貧乏でも構わないの!私・・・アナタのお嫁さんになりたい・・・。でも、私、夜中に
ずーとオナラが出ちゃう体質なの・・・。それでもいい?」と言われて、オナラくら構うもんか!と、
諸手を挙げて嫁にもらったものの、夜な夜な「ぷーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」と鳴る屁に
閉口し、「屁がうるさくて敵わんのだがね、嫁を替えてもらえんかね。ちみ。」と言うようなものである。
人として、これはなかなかできまい。

止むを得ず暖房君にはお休みしてもらい、静かな夜が再びやってきた。そして、値段相応にバッチリと
北向きな部屋は、北風小僧の寒太郎に吹きつかれ、しんしんと冷えていった。

寒くなると、おしなべて人間は心細くなるものである。余計なことも考え出す。
以前、大好きな夕方のFMラジオを聴いていたら、ウソかホントか知らないが、こんな話題が流れてきた。

「ホテルなどでは、いわゆる”いわくつき”の部屋はつき物で、そういった部屋は業界用語で”けがれる”といって、
不思議と怪奇現象が起きやすいのだ・・・。そんな部屋には、客には分からないように、壁の絵の額縁裏などに、
こっそりと”おふだ”や”お守り”を貼ったりするのだ・・・。」

もともと怪力乱神の類に滅法弱いチキン野郎な私である。
ずっと以前、かのホラー映画「リング」の予告CMを観ただけで、危うく失神しそうになったほどに。

泊まった部屋には、抽象的かつ奇抜な色でポップな、要するにヘタクソな薔薇の絵が額縁に収まって
飾ってある。考えまいとしても、その額縁の裏が気になって気になって仕方がなくなってしまった。
その部屋の宿泊代のべらぼうな安さの答えが、その額縁の裏にある気がしてならなくなってしまったのだ。

もしもこの額の裏に「耳なし芳一」が如く、これでもかというくらいビッシリと「お守りお札」が貼ってあったら
どうしよう・・・。

そのときは、迷わず「へ・・・部屋が怖くてたまらんのだかね、こ・・・怖くない部屋に替えてくれんかね。ちみ。」と、
フロントに電話するだろう。そして、怖くない部屋に案内されても、怖くて眠れなくなってしまうだろう。

額縁の裏を確認するかしまいか散々葛藤した挙句、結局980円に感謝して、疑惑は疑惑のまま常備の
ハルシオンを飲み込んで、前後不覚に朝まで眠ったのだった。

小学生くらいのころ。夏休みになると「あなたの知らない世界」という、夏季限定の恐怖ドラマ番組があったの
だが、ものすごく怖いくせに、頭から毛布を被りつつ観てしまった。そして、その夜に必ず後悔したものだった。
人間の持つ、あの「恐怖への好奇心」というものは、一体なんなのだろう。

朝になり支度を整え、チェックアウトの寸前に恐る恐る額縁の裏側を覗いてみた。

なにもなかった。


model : yuya tsuruta
[PR]
by hideet-seesaw | 2011-12-07 22:31 | photograph