BGM♪ Here,There and Everywhere / The Beatles 先日、ニュースを見ていたらスペインのとある教会で起きた珍妙な出来事を報道していた。 時を経て劣化しているキリストの壁画を、80代の老婆が勝手に修復してしまったというのだ。 そして、出来上がったキリストの絵が・・・原型を殆ど留めない、なんともシュールかつ大胆な リメイクを施されており、教会関係者や付近の住民が仰天してしまったというのだ。(→※参照) 関係者は非常に困惑し、修復を試みた当の本人も「こんなハズではなかった・・・。」と、とても反省している ようだが、私は図らずもこのリメイク・イエス様の絵を見て。。。 20分くらい大爆笑してしまった。 正直言ってあまり上手くない。というか下手である。不敵に見下しているサルの様にも見える。 この絵みたいな感じのおば様、近所にいそうである。実際、さっき近所のスーパーいなげやの鮮魚コーナーに、いた。 子持ちししゃもを買っていた。ついでに言うと、私はイワシの丸干しを買った。安かった。 教会関係者や以前の絵に慣れ親しんだ住民の方々には甚だ申し訳ないが、何度見ても無条件に笑って しまうパワーを持った滑稽な絵である。この大胆な修復をしてしまった老婆は、きっと敬虔なクリスチャンなので あろう。劣化してゆくキリストを哀れみ、見るに見兼ねてやってしまった文字どおり「老婆心」の成せる 業だったのであろう。こう考えると、なんとも憎めない話ではないかと思うのは私だけであろうか。 この珍事件を知った私が、憎めない話というのには理由がある。 あれは私の頭の中に「バイクと異性と音楽」のことしかなかった高校2年生のとき。 当時、若者の間では古着のGパンやGジャン、革ジャンに色褪せたネルシャツ、エンジニアブーツに ウエスタンブーツ、デッドストックのスニーカー・・・などといったアメリカンカジュアル、略して「アメカジ」が 流行っており、私も「アメカジにすれば女の子に持てるべい!」と思って、汚い古着ファッションに 勤しんでいた。勉強には全然勤しんでいなかった。このアメカジは「アメリカの不良」をイメージさせるのが コツで、Gパンも革ジャンも傷ついて汚くて穴が開いているくらいのものがカッチョイイとされていた。 性格上、汚くするのは得意な私は、買ったばかりのGパンを穿いて田んぼの泥に浸かってみたり、 ネルシャツをわざと川原の小石でこすってガシガシ洗ってみたりしていた。勉強はちっともしなかったが、 こういうことは頑張った。そしてある日、オシャレな先輩がGパンの裾を切ってバラして穿いているのを見て 「イカす・・・」と思い、さっそくマネして、田んぼの泥に漬け込んでイイカンジに「悪汚れ」しているリーバイス のGパン「泥田一号」の裾を、祖母の裁ちバサミでばっさりとやって、切り口をほぐしてみた。 ・・・ううう!なんてかっこいいの!?と思い、さっそく愛バイクに跨って走ってみた。ほぐしたところが 風になびいて「ひろひろっ」っとしていて、非常にイカすではないか!これは女の子たちが放っておくまい・・・。 などとひとりほくそ笑んで、横田基地沿いの国道16号線を無意味に3往復ほどしてみたのだった。 今考えると非常にダサくてバカ丸出しだが、当時は本気で「俺様のひろひろイカす」と思っていた。 馬鹿の暴走は止まらない。 馬鹿は基本「ひとつ覚え」である。(※参照"little whiskered man")「裾ひろひろ」に味を占めた私は、 その他数本のGパンやチノパンやペインターパンツを次々に「ひろひろ」にして、大変ご満悦であった。 恐らく、それを見た母や父は「バカだからしょうがない・・・」と諦めていたのだろう。特に何も言っては 来なかった。・・・のだが、家族でひとり。そんな私の「ひろひろ暴走」を見るに見兼ねた人がいた。 今は亡き祖母である。 大正生まれで料理も裁縫も得意。毎朝見事な黒髪を結い上げ、着物に着替えて仏壇に般若心経を 唱える様な、曲がったことが嫌いで情深く優しい几帳面な祖母である。毎夜部屋でビートルズを熱唱している アホな孫が、ズボンの裾上げを上手くできず「ひろひろ」させたままにしているのを不憫に思ったのであろう。 ある日学校から帰ると、ひろひろ仕様にしたハズのズボンたちが、ものの見事に裾を縫製されて私の部屋に 畳まれていたのだった。ひろひろフィーバーが真っ最中の私は、あまりのショックにヨヨヨとその場に崩れ落ち、 しばし呆然と「全体は汚いのに裾口の縫い目だけは異常にキレイ」になってしまったズボンたちをぼんやりと 眺めつつ、途方に暮れていた。そこに割烹着を纏った祖母がしずしずとやってきて 「秀人。ほつれてるの全部綺麗にしておいてやったからね。」 と、得意そうににっこり笑って言うのだ。この、孫を思う愛情と笑顔にはさすがに逆らえず、ただ「あ・・・ アリガトウ・・・」と言ったのを憶えている。そして、私の「ひろひろ青春」はその日、終わりを告げた。 今思い返せば、そんな私のアホな暴走を、美しい縫い目と笑顔で優しい思い出に変えてくれた亡き祖母に、 感謝の気持ちが止まない。この一途にひとつ覚えのバカな孫は、祖母が止めてくれなかったら、きっとその後 数年はひろひろさせていただろう。 そんな思い出が蘇り、スペインの修復おばあさんの行為が、どうしても微笑ましくてならない。そして、 その描いたキリスト画が、笑えて笑えて憎めない。消されてしまった以前の壁画はもう覆水盆に還らずが如く 元には戻らないかもしれないが、盆からこぼれたその水は、土に滴り花を咲かせたのではなかろうか。 今その教会は、修復された絵をひと目見ようと観光客が殺到しているらしい。壁画を汚した罪は罪だが、 事件発覚後寝込んでしまったというこの純粋な老婆を、寛大な心で対処していただきたいものである。 祖母の繕った私のひろひろズボンたちは、今も私の思い出と共に実家の押入れに眠る。 明日あたり、ちゃんと裾口の縫われたGパンを穿いてバイクに乗り、向日葵でも購って祖母の墓前に 手向けようかと思う。 model : sumitaka hikichi
by hideet-seesaw
| 2012-08-29 00:00
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