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geeky Columbus
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BGM♪ Carnival / The Cardigans


メジャーデビューをして人気が出たミュージシャンを見て、

「俺はあのバンドを、インディーズの頃から一目置いて、温かく見守ってきたのだ。やはり売れたな。
俺が目を掛けたバンドは、だいたいそうだ。ふふふ。」

などと、ちょっとキザな音楽評論家気取りで言う方がたまにいる。
この場合の「目を掛けた」とは、きっとローカルなテレビや雑誌で見たりライブに行ったり、ってことだけなのだろうが。
そういう方が、

「でもさ・・・売れ出したら個性のないツマラんバンドになっちまった・・・。ので、もう興味はない。」

などと言う場合がある。
マイナーなインディーズ時代は結構身近な存在で、小さなライブハウスでアットホームに
ファンとコミュニケーションなどを取ったりしていたのが、メジャーデビューで一躍有名になり、遠い存在に
なってしまったのが淋しくて、そしてジェラシーなのかもしれない。そう言いながらも、やはりそのミュージシャンが好きで、
シングルが発売されるや否や、こっそり買って応援してたりするかもしれない。

そう考えれば、例えば・・・東京で一旗あげた男が故郷の田舎に泣く泣く残してきた、貧乏時代に
別れた恋人が、その恋人のことなどすっかり忘れて東京で頑張るその男の成功と活躍を、毎夜健気に
人知れず、夜空の星に祈っているようなイジラシさがあるではないか。

まこと勝手な私の妄想であるが。しかも、なにやら古いタイプの妄想である。

私は、好きな音楽はもっぱら古めの洋楽やジャズ、クラッシックが多いので、新鋭ミュージシャンに対して
前述のファンの方のような気持ちになったことは特にないのだが、最近その気持ちがわかるようになった。
でも、音楽に関してのことではない。

「ラー油」に関しての事である。ここ最近、なにが発端か知らないけど「ラー油」がブームである。

以前はきっとどのご家庭でも、食卓の調味料入れの中の醤油やコショウ、七味唐辛子などの、引っ張りダコの
大物たちの陰にひっそりとベトついたホコリをかぶって、せいぜいお父ちゃんが酔っ払った勢いで買って来た
お土産の餃子の時ぐらいにしか出番のなかった彼女が、最近「食べるラー油」などと出世して、世間では
猫も杓子もラー油ラー油。である。

そんなラー油。私は小学生の頃からあらゆる食事にブチかけまくっていた。ラーメンはもちろん、味噌汁、
生卵ごはん、蕎麦やうどん、挙句の果てにハンバーグやグラタンなど等・・・。香ばしい胡麻油とスパイシーな
唐辛子でできたラー油が合わない料理の方が稀であると、もう20数年も前から思っていたのだ。
しかし・・・当時の世間の目は冷たかった。「秀人、なんでそんなもんにまでラー油をかけるの?キモチ悪い!」
などと、周りから白い目で見られたものだ。旨いものは旨いので、そんな言葉など全然気にならなかったが。
今考えれば、なんと先見明らかなる神童か。それとも、ただの馬鹿の一つ覚えの味覚音痴のアホガキか。たぶん後者。

それがどうだ?最近のラー油ブームはっ!?「食べるラー油」に始まりブームになるや、便乗が便乗を呼んで
ラー油関連製品が各方面から乱発して、いまやラー油市場の売り上げは以前の10倍にも跳ね上がったと
いうではないか。

こうなると、誰もが餃子のときぐらいにしか見向きもしなかったラー油を、20数年前からこよなく愛し続けた
男としては、なんだかオモシロくない。そう。前述のインディーズ時代のファンのような気持ちである。
スーパーの片隅に、忘れ去られたように「辣油・・・」と暗い書体で地味に書いてある小瓶しかなかったものが、
いまやスーパー内のアリーナ席に山と積まれて、ホントに本人がそう言ってんのか甚だ疑問だが
「店長オススメ☆」のフキダシ文句も添えられて、
ご丁寧に店員手描きの「ラー油なるほどレシピ」なんてものまで棚に貼ってあり、馬子にも衣装のカラフルな
デザインの瓶に詰められ、エラソーに陳列されている。値段だってかなりエラソーだ。

そんな大出世を果たし変貌を遂げた、かつての恋人「ラー油子」を、私は「俺だけのものだったのに・・・」と、
そんな身勝手な嫉妬心から許せずにいた。要するに、ブームになってからなんとなくラー油を使わなくなって
しまっていた。そしてさらに要するに、出世したラー油子は値段が張るので「別にいらねーや」と思っていた。

ところが先日、ひょんなことから「ラー油の野沢菜漬け」なる、変わり果てた姿のラー油子を頂いたのだ。
そして大好物の生卵ゴハンにそっと載せて食べてみた。

その数日後、誰も事情は知らないし、誰も気にも留めていないのに、心なしかコソコソと及び腰で、
スーパーの買い物カゴに「食べるラー油」をそっと入れている私がいた。

自分が発見したアメリカ大陸に、人々が押し寄せ国を作ったことをヒガんでスネて、
でも、その国がとても良い国だったので、ちゃっかりコッソリとその国の住人になってしまった、
ものすごくカッコ悪いコロンブスの話である。

model J.mogi
by hideet-seesaw | 2011-03-21 10:05 | photograph


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